不動産の売却を考え始めると、まず耳にするのが「不動産査定」という言葉です。そして、査定を依頼すると不動産会社から「不動産査定書」という書類が提示されます。この査定書は、ご自身の資産価値を把握し、売却活動の第一歩を踏み出すための非常に重要なものですが、専門用語も多く、どこをどう見れば良いのか戸惑う方も少なくありません。この記事では、不動産査定書の基本的な知識から、信頼できる査定書を見極めるための具体的なチェックポイントまで、分かりやすく解説していきます。
不動産査定書とは?まず知っておきたい基本
・売却価格を決めるための重要な判断材料
・不動産鑑定評価書との違いは?
不動産査定書には2つの種類がある
・不動産会社が作成する無料の査定書
・不動産鑑定士が作成する有料の査定書
不動産査定書の主な記載内容
・物件の概要と基本情報
・査定価格とその算出根拠
・販売価格の提案と諸費用の概算
信頼できる査定書か?見極めるべき5つのチェックポイント
・ポイント1:査定価格の根拠が明確に示されているか
・ポイント2:周辺の取引事例は適切か
・ポイント3:物件の長所と短所が客観的に評価されているか
・ポイント4:「流通性比率」の説明は丁寧か
・ポイント5:担当者のコメントや提案内容は具体的か
不動産査定書の入手方法と流れ
・STEP1:不動産会社へ査定を依頼する
・STEP2:必要書類を準備する
・STEP3:訪問査定を受け、査定書を受領する
査定額を上げるために準備しておくべき書類
・購入時の売買契約書やパンフレット
・リフォーム履歴がわかる資料
・住宅性能評価書やインスペクション報告書
まとめ
不動産査定書とは?まず知っておきたい基本
不動産査定書は、不動産会社が対象の不動産を調査し、「このくらいの価格で売却できるだろう」という予想価格を算出した結果をまとめた書類です。売主にとっては、今後の売却戦略を立てる上での羅針盤となる、非常に大切な情報源となります。
売却価格を決めるための重要な判断材料
不動産査定書に記載された査定価格は、売主が「売り出し価格」を決める際の最も重要な参考情報です。査定価格を基に、不動産会社の担当者と相談しながら、市場の動向や売却希望時期などを考慮して、最終的な売り出し価格を決定します。査定書の評価内容を正しく理解することが、適正な価格で売却を成功させるための第一歩です。
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不動産鑑定評価書との違いは?
不動産査定書と混同されやすいものに「不動産鑑定評価書」があります。不動産査定書が、主に売却を目的として不動産会社が作成する参考資料であるのに対し、不動産鑑定評価書は、国家資格を持つ不動産鑑定士が作成する公的な証明力を持つ書類です。相続争いや裁判などで不動産の資産価値を証明する必要がある場合に用いられます。売却活動においては、基本的に不動産会社が作成する不動産査定書で十分です。
不動産査定書には2つの種類がある
不動産査定書は、誰が作成するかによって大きく2種類に分けられます。それぞれの特徴を理解し、ご自身の目的に合った査定を依頼することが重要です。
不動産会社が作成する無料の査定書
一般的に不動産売却のために依頼するのが、不動産会社が作成する無料の査定書です。これは不動産会社にとって、売主との媒介契約を結ぶための営業活動の一環です。そのため、費用は一切かかりません。複数の会社に依頼して、査定価格や担当者の対応を比較検討するのが一般的です。
不動産鑑定士が作成する有料の査定書
前述の通り、不動産鑑定士が作成する査定書は「不動産鑑定評価書」と呼ばれ、有料です。国が定めた基準に基づき厳格な評価が行われるため、客観性が非常に高く、公的な証明資料として利用できます。売却目的でこの鑑定評価書を取得するケースは稀ですが、親族間売買で価格の妥当性を示したい場合などに活用されることがあります。
不動産査定書の主な記載内容
不動産査定書のフォーマットは会社によって様々ですが、主に記載されている項目は共通しています。ここでは、基本的な記載内容について解説します。
物件の概要と基本情報
査定対象となる不動産の所在地、面積、築年数、間取り、法令上の制限(用途地域、建ぺい率など)といった基本的な情報が記載されています。この情報に誤りがないか、まずは確認しましょう。
査定価格とその算出根拠
査定書の最も重要な部分が、査定価格と、その価格に至った根拠です。多くの不動産会社は「取引事例比較法」という、近隣の類似物件の成約事例と比較して価格を算出する方法を主軸にしています。どのような物件を比較対象としたのか、その物件と比べてどのような点が評価されたのか(あるいは評価が下がったのか)が具体的に記載されています。
販売価格の提案と諸費用の概算
査定価格を基に、不動産会社が推奨する「売り出し価格」が提案されます。また、売却にかかる仲介手数料や印紙税、登記費用などの諸費用が概算で記載されていることもあります。これにより、売却後の手取り額をイメージしやすくなります。
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信頼できる査定書か?見極めるべき5つのチェックポイント
複数の不動産会社から査定書を取り寄せても、提示された査定額の高さだけで判断するのは危険です。契約を取りたいがために、根拠の乏しい高い査定額を提示する会社も存在するからです。ここでは、査定書のどこに注目し、信頼できる不動産会社かを見極めるべきか、5つのポイントを解説します。
ポイント1:査定価格の根拠が明確に示されているか
第一に、なぜその査定価格になったのか、その根拠が誰にでも分かるように具体的に書かれているかを確認します。「人気エリアだから」「需要が高いから」といった抽象的な理由だけでなく、「〇〇駅徒歩5分である点をプラス評価」「近隣の類似マンションA(平米単価〇円)と比較し、眺望が良い点を考慮して平米単価を〇円と設定」のように、具体的な数値や事実に基づいて説明されているかが重要です。
ポイント2:周辺の取引事例は適切か
次に、査定の根拠として挙げられている取引事例が、ご自身の物件と条件が近いかを確認しましょう。所在地だけでなく、最寄り駅からの距離、築年数、広さ、間取りなどが大きく異なる物件を参考にしている場合、その査定額の信頼性は低いと言えます。比較対象として適切な事例を選定しているかは、その不動産会社がエリアの市況を正確に把握しているかどうかの指標にもなります。
ポイント3:物件の長所と短所が客観的に評価されているか
良い点ばかりを並べて高い査定額を提示する査定書には注意が必要です。信頼できる査定書は、物件の長所(アピールポイント)だけでなく、短所(ウィークポイント)についても客観的に言及し、それが査定価格にどう反映されているかを説明しています。「日当たりは良いが、前面道路が狭い」「駅からは近いが、坂道が多い」など、プラス面とマイナス面の両方を正直に記載している査定書は、誠実な姿勢の表れと言えるでしょう。
ポイント4:「流通性比率」の説明は丁寧か
査定項目の中に「流通性比率」という項目がある場合があります。これは、その不動産の「売れやすさ」を示す指標で、市場の需要や供給のバランスなどを考慮して補正を加えるものです。この数値が基準値の「1.0」から大きく異なっている場合は、その理由を担当者に確認しましょう。市場分析に基づいた納得のいく説明ができるかどうかは、担当者の力量を測る良い機会となります。
ポイント5:担当者のコメントや提案内容は具体的か
最後に、査定書に記載されている担当者のコメントや、今後の売却活動に関する提案内容にも目を通しましょう。定型文のようなコメントではなく、実際に物件を見た上での所感や、売主の状況に寄り添った販売戦略が具体的に提案されているかがポイントです。例えば、「室内の状態が非常に良いため、内覧時の印象を最大限に活かす週末中心の広告展開を提案します」といった具体的な提案は、売却を真剣に考えてくれている証拠です。
不動産査定書の入手方法と流れ
実際に不動産査定書を入手するまでの一般的な流れを解説します。査定依頼から査定書の受領までは、通常1週間から10日程度が目安です。
STEP1:不動産会社へ査定を依頼する
まずは、不動産会社のウェブサイトなどから査定を依頼します。物件情報(所在地、広さ、築年数など)と連絡先を入力するだけで、簡単に申し込めます。一度に複数の会社へ査定依頼ができる「一括査定サイト」を利用すると、手間を省けて便利です。
STEP2:必要書類を準備する
査定依頼後、不動産会社の担当者から連絡があります。より正確な査定のために、後述する書類の準備を依頼されることがあります。事前に手元に揃えておくと、その後のやり取りがスムーズになります。
STEP3:訪問査定を受け、査定書を受領する
担当者が実際に物件を訪問し、室内の状況や日当たり、周辺環境などを30分~1時間程度かけて調査します。この「訪問査定」を経て、後日、正式な不動産査定書が提示されます。査定書の内容について、担当者から直接説明を受けるのが一般的です。
査定額を上げるために準備しておくべき書類
査定を依頼する際に、特定の書類を用意しておくことで、より精度の高い査定を受けられたり、プラスの評価につながったりすることがあります。可能な範囲で準備しておきましょう。
購入時の売買契約書やパンフレット
不動産を購入した際の売買契約書や、新築時のパンフレットは、正確な面積や仕様などを確認するために役立ちます。特にパンフレットは、物件のアピールポイントがまとめられており、査定の際の参考になります。
リフォーム履歴がわかる資料
過去にリフォームや修繕を行っている場合は、その内容や時期、費用がわかる資料(契約書や保証書など)を用意しましょう。特に、水回り設備の交換や外壁塗装など、資産価値の維持・向上に繋がるリフォームは、査定額アップの要因となります。
住宅性能評価書やインスペクション報告書
第三者機関による「住宅性能評価書」や、専門家による建物の現状調査報告書(インスペクション)があれば、必ず提示しましょう。建物の品質や安全性が客観的に証明されているため、買主に安心感を与え、査定においても高く評価される傾向があります。
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まとめ
不動産査定書は、不動産売却における最初の道しるべです。査定額の高さだけに一喜一憂せず、その根拠や内容をしっかりと吟味し、ご自身の資産価値を正しく把握することが成功への鍵となります。この記事で解説したポイントを参考に、信頼できる不動産会社をパートナーに選び、納得のいく売却活動を進めてください。