〈特集〉 この街この人
邢 天綺(シン テンチィ)さん
器と中国茶のGallery&Shop『火と木』店主・デザイナー
1989年中国・上海生まれ。大学卒業後はホームウェア(家具や器など)を扱う企業でプロダクトデザイナーとして商品開発に携わる。2014年、日本の陶磁器を学ぶために来日、京都伝統工芸大学校へ入学。卒業後は長崎県・波佐見焼の商社に就職し、インハウスデザイナーとして約3年間勤務。退職後、2020年に大阪で株式会社文芸向上を設立し、その2年後に器と中国茶のGallery&Shop 『火と木』をオープン。中国茶器や中国茶の販売を中心に、ワークショップの開催や百貨店イベントにも参加するなど、その魅力を伝えている。
モダンなインテリア空間で出合う中国茶器の世界
阪神野田駅から北西に向かう道路沿いに佇む、器と中国茶のGallery&Shop『火と木』。中国出身の邢 天綺(シン テンチィ、以降シン)さんが営むこの店は、2022年9月にオープンしました。店名の由来は、焼き物の焼成(しょうせい)に必要なエネルギー「火」と、燃やす材料である「木」からきており、シンさんの焼き物への真っ直ぐな愛情が込められています。来日して約10年、シンさんの日本語はとてもナチュラルです。幼い頃から絵や器に興味を覚え、10代からは日本のカルチャーにも親しみ、「ラブコメのドラマで日本語を覚えました。でも敬語はいまだに難しくて...」と朗らかに笑います。



店内には中国茶器を中心に、日本・韓国でつくられた作家物やプロダクト製品の茶器、そしてシンさん自身によるガラス作品など、中国茶を楽しむためのアイテムが豊富に並んでいます。店舗デザインは、プロダクトデザイナーとして働いた経験があるシンさんのセンスを反映。設計の打ち合わせ時に希望したイメージは、日本の侘び寂びテイストと北欧のインテリアを融合した"ジャパンディ"スタイルなのだそう。アースカラーの外壁、砂のテクスチャーを活かした内壁、どっしりした金属製のドアなど、自然の風合いをとり入れた空間です。


シンさんは日本で本格的に暮らす前、沖縄から北海道まで日本列島を縦断旅行したことがあり、その中で伝統を重視する中国の器とはまた異なる、日本の焼き物のおおらかさに感動されたそう。産地や製法、つくり手によって多彩な魅力がある陶磁器についてもっと知りたいと留学を決意。そして京都と長崎・波佐見で約6年間、日本の陶磁器文化に間近で触れたことで、再び中国茶器を志向するようになったのだとか。開店当初は食器や作家さんのアクセサリーなど幅広く扱っていましたが、シンさんとお客さまの求めるモノが次第に重なり合い、現在の品揃えになったそうです。


新しい商品や情報を仕入れるために、年に4~5回は中国へ帰国するシンさん。景徳鎮(けいとくちん)をはじめ、徳化窯(とっかよう/福建省)、宜興窯(ぎこうよう/江蘇省)など各産地を巡り、現地の人たちとも交流しながら器や茶葉を厳選します。また、こまめに日本国内の産地や作家の工房を訪ねたり、韓国・台湾にも足を運び、「ものづくりの地でのフィールドワーク」がシンさんのモットーです。
深遠なる中国茶文化。自ら学び続け、日本の暮らしに根付かせたい
器と中国茶のGallery&Shop 『火と木』では、中国茶のワークショップが不定期で開催されています。参加するのは、お茶が好きで知識欲が旺盛な40代以上の女性が中心。「東京から来られる方もいますし、最近では20~30代の女性も増えています」。地域を問わず、多くの人たちと交流し、興味を持ってもらおうと、阪急うめだ本店などのイベントや各地のマルシェにも積極的に参加・出店。行く先々で、中国茶への関心が高まっていることを実感しているそうです。

中国茶は、発酵の度合いで緑茶・白茶・黄茶・青茶(烏龍茶)・紅茶・黒茶の6つに分類されます。茶種によって味や香りはもちろん、用いる茶器や淹れ方にも違いがあるのだそう。今回、シンさんに淹れていただいた青茶の場合、茶葉を入れた蓋碗(がいわん)にお湯を注ぎ、お茶の濃度を均一にする公道杯(こうどうはい)に移して茶杯に分け、各人に配ります。一煎目は香りが立ち、二煎目には味が深まるなど、一煎ごとの変化や余韻を楽しむのが醍醐味。だから茶杯も小ぶりです。「このお茶は十煎まで味わえますよ」とシンさん。ゆるりとした、贅沢なお茶時間を満喫あれ!




中国茶の作法はあまり堅苦しく構えず、気軽に、楽しくが基本。それでも「私なりに、美しく正しい嗜み方を伝えられたら」とシンさん。そのためにも、現地の器やお茶の"リアル"をインプットすることが大事だといいます。

シンさんがいつも心に留めているのは、「活到老、学到老」という中国のことわざです。直訳すると「老いるまで生き、老いるまで学ぶ」。つまり、"生涯学習"というニュアンスでしょう。「大人になっても好きなことを追求し、学び続けられるって、ほんとうに幸せだなと思います」としみじみ話します。
「美味」と「人情味」が満ちあふれる街
阪神電車をはじめ、JR東西線と大阪メトロ千日前線が乗り入れる野田。戦災に遭わなかったこの地域には、いまでも石畳の路地や長屋が残り、どこか懐かしい下町情緒が漂います。梅田やなんばといった主要駅にもアクセスしやすく、初めて訪れたときのシンさんの第一印象は「便利で住みやすそう!」。新たな拠点にする決め手になりました。

器と中国茶のGallery&Shop 『火と木』から北に向かうと、『海老江八坂神社』が鎮座しています。店舗の建築着工時に地鎮祭でお世話になって以来、折々に参拝。心穏やかになるうえ、初詣や節分の豆まき、夏祭りなど、にぎわいのある行事にもワクワクするのだそうです。

この街の人たちを「あったかくて人懐っこくて、世話焼きさんが多くて大好きです」と話すシンさん。その代表格は、神社向かいの『龍美温泉』の女将さんでしょう。「すごく疲れた日は大きな湯船に癒やされに来ます」。風呂上がりに、ロビーで名物のゆで玉子を頬張りながらおしゃべりするひとときは、疲労回復の相乗効果があるようです。

食べることが大好きなシンさん。個性的な飲食店が多いこともこの街を選んだ理由のひとつだといいます。この居酒屋は新鮮な海の幸がお手頃、あそこはスイーツが美味しいカフェ、本場の台湾料理ならここ...などなど、会話が弾むと、おすすめのグルメスポットが次々と出てきます。ほかにも、さまざまな飲食店が軒を連ねる駅前通りや、野菜や鮮魚、お惣菜などが揃う商店街もあって、「シーンや気分に合わせて選択肢が多くてうれしい」。フィールドワークを得意とするシンさんにとって、野田は発掘しがいのある街のようです。

【 わたしのホームタウン <野田> 】
奥深い中国茶文化の魅力をシェアしたい。
野田を職住一体の拠点にして約4年になります。とても住み心地がよくて、引っ越しを検討している知人がいたら「野田はいいよ~」とすすめています。
中国出身の私が、この街でゼロから中国茶文化を浸透させるのはなかなか難しい。でも、現地で見て聞いて体験してきたその魅力を、ひとりでも多くの人とシェアしたい一心です。
今後、大人向けのワークショップだけでなく、子ども教室も開けたらいいな。ちょっとベタですが、日中文化の架け橋になりたいと本気で思っていて...(笑)。一生ものの仕事を大切に育んでいきます。
器と中国茶のGallery&Shop 火と木
邢 天綺
●器と中国茶のGallery&Shop 火と木
大阪市福島区海老江2-6-3
TEL /080-4060-3236
営業時間/13:00~18:00
定休日/月曜~金曜(Instagram にてご確認ください)
※ ワークショップ:1回の参加者数は最大7人まで(所要時間約90分/8,800円~)。開催予定はInstagramにて。
https://www.instagram.com/hitoki_osaka/
https://hitokiosaka.studio.site
https://aca-ware.com
●海老江八坂神社
大阪市福島区海老江6-4-2
TEL /06-6451-0264
営業時間/ 6:00~18:00(季節により異なる)
https://www.instagram.com/ebieyasaka/
https://share.google/LkiMPWAHkOkc6IMmb
●龍美温泉
大阪市福島区海老江4-8-13
TEL /06-6451-2741
営業時間/14:45~24:00
定休日/月曜(Instagram にてご確認ください)
https://www.instagram.com/tatsumi2626onsen/


◇取材日/2026年4月28日(当記事の内容は取材日時点の情報に基づいています)



