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2026.04.03

《兵庫・宝塚》

地域と一緒に歩むカフェでありたい

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〈特集〉 この街この人
寺地 一貴さん

『SHICT』代表
1996年兵庫県西宮市生まれ。小学校2年生からサッカーを始め、大学卒業後、「FC大阪」に入団。約1年間プレーし、退団後はパスタカフェで勤務。退職後、カフェオーナーとして独立し、2021年12月に『SHICT』宝塚本店をオープン。2025年からフランチャイズ展開をスタートさせ、2026年前半までに5店舗が開店、今後は京都や東京などにも進出予定。飲食店SNSコンサルティングや店舗プロデュースも手掛ける注目の青年実業家。宝塚市在住。

宝塚から始まり、大きな広がりをみせるドーナツの「輪」

阪急宝塚駅から徒歩約3分。宝塚大劇場に向かう「花のみち」手前を右折して、ほどない場所に『SHICT』はあります。店先から漂う甘~い香り。ここ宝塚本店を皮切りに、わずか4年でフランチャイズ店を続々とオープン。どの店舗も大人気店へと押し上げたのが、代表の寺地一貴さんです。元サッカー選手で、ゴールキーパーとして活躍後、カフェオーナーの道を歩み始めました。

サッカーグラウンド、ゴールキーパーとして活躍するFC大阪時代
小学生の頃、友だちに誘われ地元のサッカークラブに入り、中学2年の終わりからゴールキーパーのポジション。写真は「FC大阪」時代。

「学生時代から、カフェ好きのスイーツ男子でした」と笑う寺地さん。大学時代から今でも続けているカフェ巡りや、FC大阪退団後に働いた西宮市内のパスタカフェでの経験から、「スイーツは味だけでなく、価格や見た目が重要だ」と思っていたそうです。テイクアウトでの販売価格は「500円以下」。誰もが知っていて、気軽に買いやすくて、頬張ると笑みがこぼれる――。その強い思いを実現したいと思い悩んだ答えが「ドーナツ」でした。

寺地さんの熱い思いを実現させた『SHICT』の花形スイーツは、「カフェなのに1日800個売れるドーナツ」とのキャッチコピーで雑誌やSNSで取り上げられるように。開店前から期待に胸を膨らませたスイーツ好きが並び、時間帯によっては行列ができることもあります。

『シクト』の店内、開店準備でショーケースに続々と商品が並べられる
ショーケースに並ぶドーナツは、次々と売れては補充されていく。全ドーナツのベースとなる「プレーン」が200円。「ココナッツ」250円、「京都宇治抹茶」280円など。

コンパクトな店内にあるショーケースには、常時約10種類のドーナツが並びます。ストロベリーや抹茶、キャラメルナッツなど色とりどりのフレーバーは、「今日はどれにしよう」と迷う愛らしさ。生地は、北海道産小麦をベースにしたオリジナルミックス粉を使用。その日の天気で変わる温度や湿度によって発酵の具合が違うので、水分量の調整は欠かせません。一つひとつ丁寧に揚げられたドーナツは、外はカリッと香ばしく、中はもっちり。「シンプルで素朴な味。でもほかにはない」を目指したといいます。

『シクト』の店内、椅子に腰かけてコーヒーの美味しさを語ってくれる寺地さん
「ぜひ、お店でコーヒーも飲んでいってほしいです」と寺地さん。コーヒーは専門店『TAOKA COFFEE』のオリジナルブレンドを使用。

「味わいや食感とともに、目で楽しめて美味しい」への追求は、カラフルなチョコやナッツをまとわせたり、季節のフルーツをまるごとトッピングするなどで表現。今の時期のトッピングは旬のストロベリーでしたが、夏はシャインマスカット、秋はマロンなど、季節ごとに限定商品が出現します。商品開発は、「さまざまな人気店のドーナツを研究し、試作を重ねました」と余念がありません。

『シクト』のドーナツ、ストロベリー、キャラメルナッツなど
手前右から時計回りに、「ストロベリー」280円、「キャラメルナッツ」320円、一番人気の「シュガー」210円、宝塚限定の「アールグレイ」280円。
『シクト』のカヌレ、丸ごとイチゴなど
「自家製カヌレ」250円~も人気。インパクトのある丸ごとイチゴなど、カヌレにこれだけトッピングしているのは珍しい。
『シクト』の店内メニュー、レアガトーショコラ
店内限定メニューの「レアガトーショコラ」580円は、濃厚でとろりとした生チョコのような食感。

もうひとつの定番スイーツがカヌレです。ドーナツとはまた異なるカリもち食感で、こちらも季節によって変わるトッピングがとってもキュート。ドーナツと一緒の詰め合わせを手土産にすれば、 箱を開けた瞬間、思わず声が上がり、自然と顔がほころぶでしょう。


シンク+セレクトで「シクト」。分析力と判断力に迷いなし

経営のノウハウはパスタカフェでの実践で学びました。当時は、自ら提案した新作スイーツが好評を得るなど、自信と経験を蓄積した寺地さん。2年後、「一から自分でやりたい。やれる」との確信を得たのを機に、ネクストステージに踏み出したそうです。

『シクト』の店内、店づくりのことを話してくれる寺地さん
店舗プロデュースも手掛ける寺地さん。その構想を具体化するべく、チームを結成し、あらたな挑戦へと挑んでいく。

出店先候補は念入りにリサーチし、独自に掲げた指標をクリアした"宝塚"に決定。「生まれ育った西宮名塩からも近く、馴染みのある土地なのも決め手になりました」。ちなみに『SHICT』という店名は、「THINK(考える)」と「SELECT(選ぶ)」を掛け合わせた造語です。「プレゼントを考える時間、選ぶ時間も楽しんでほしい」と込められた思いが見事にリンクしています。

『シクト』の厨房、開店準備をする女性スタッフ
仕込みは朝8時頃から。持ちやすく、食べ歩きしやすいサイズというのもSHICT・ドーナツの特長。
『シクト』の店内、ナチュラルにまとめられた空間
天然木や白い棚、打ちっ放しのコンクリートでナチュラルにまとめ、すっきりとしたモダン空間に。「親しみやすく、居心地がよい」が店内カフェのコンセプト。
『シクト』の看板、指先のイラストが描かれたロゴが特徴的
寺地さんご自身が考案したSHICTロゴ。タイポグラフィ上に「スイーツを選び取る」指先のイラストが描かれている。

寺地さんが店舗経営をする上で、一番大切にしているのは「いかに地域と一緒に歩めるか」と言い切ります。そして店舗は、大都市ではなく、最寄駅が大きな駅なら少し離れた路地にあり、佇むような存在であること。宝塚本店だけでなく、全出店計画の基本方針にしています。

『シクト』の厨房前、女性スタッフと談笑する寺地さん
開店準備がひと段落した合間にスタッフと談笑。店内では"寺さん"の愛称で親しまれ、女性スタッフの仕事と家事の両立をさりげなく気遣う一場面も。

寺地さんはその"地域と一緒に歩むカフェ"を目指す一環として、2026年1月から宝塚市内の小学校で「食育活動」を始めました。「うちのスタッフと小学校6年生のみんなでドーナツづくりで盛り上がりました。つくる楽しさはもちろん、子どもたちにものづくりの大変さや喜び、親への感謝を持ってもらうきっかけになればいいと思います」。


宝塚も宝塚南口も、地元の人と交流できる大切な場所

寺地さんの職住の拠点となっている宝塚。そして、宝塚といえばもちろん宝塚歌劇の本拠地であり、全国から数多くのファンが訪れる"歌劇の街"です。華やかさと閑静な住宅街としての顔が共存する街ですが、近年は、宝塚南口駅前の旧宝塚ホテル跡地にタワーマンションや商業施設などが建設され、ますます魅力的な街になっています。

旧宝塚ホテル前、成人式のことを思い出しながら歩く寺地さん
再開発が進む宝塚南口駅前にて。「そういえば成人式の同窓会は、以前ここにあった宝塚ホテルでやったなぁ」と当時を懐かしむ寺地さん。

仕事を終えた後、よく出向くのがこの宝塚南口界隈だとか。陽気な人柄のおかげで、バーや飲食店のオーナーたちと親しくなり、行きつけの店、お気に入りの店がたくさんあるそう。学生時代は人見知りだったというのがウソのようですが、経営者となり会食する機会が増えたことで、会話術も自然と身についたといいます。美酒佳肴とともに親睦を深め、情報交換する時間は、寺地さんのエネルギー源になっています。

宝塚大橋、阪急電車が走るきれいな景観を楽しむ寺地さん
武庫川に架かる宝塚大橋は、宝塚大劇場や宝塚ホテル、そして阪急電車が走る景観を望める絶好のロケーション。「宝塚イチのビュースポットです」。

各店舗との各種打ち合わせなどで、あちこち飛び回る毎日。昼間に近隣をのんびり散策する時間はありませんが、愛犬とのお散歩は朝夕の日課だそう。住まいの逆瀬川から宝塚大橋を渡り、武庫川の河川敷へと足を延ばすことも。この日も愛犬が気になるようで、見守りカメラを手にして、「ほら、ひとりで遊んでますよ」と目を細めます。

花のみち、桜の木や草花に囲まれた小道を散歩する寺地さん
桜の季節が特におすすめの花のみちをぶらり。周辺にはテイクアウトできるお店も多く、ベンチに腰掛けて季節の花を楽しむことも。
花のみち、名作「ベルサイユのばら」のオスカルとアンドレ像
宝塚歌劇をモチーフにしたモニュメントのうち、名作「ベルサイユのばら」のオスカルとアンドレの像。
花のみち、宝塚ホテルなどが見られる鉄橋の上からの景色
花のみち花舞台の鉄橋の上から、右に見えるのが2020年に移転開業した宝塚ホテル。クラシカルなデザインは健在。

数年前に、宝塚歌劇を初観劇。「想像以上に素晴らしい舞台で感動しました。当店のドーナツを贔屓にしてくれているファンの方や劇団関係者もたくさんいます」。そんな方々がドーナツ片手に花のみちを歩いている光景は「すごくうれしいです」。あらためて歌劇の街であることに畏敬の念を抱きつつ、「『SHICT』の本店がある街としても定着させたい」と話す。その眼差しは、まっすぐ前を向いています。


【 わたしのホームタウン <宝塚> 】

宝塚の街に溶け込み、地域貢献を柱に活動の幅を広げたい

宝塚は、緑豊かな自然とにぎわいがほどよく調和していて、梅田や三宮にもアクセスしやすい街。ペットを飼えるマンションも多いようで、可愛い犬と散歩している人を見かけると心が和みます。

私がこれから力を入れていきたいことは小学校での食育活動です。宝塚市内ではこれまで同様、定期的に開催し、他店舗の街でもやりたいと思っています。この活動は地元密着型カフェとして、大きな柱だと考えています。

地域のみなさんにとって、『SHICT』がこの街にあること、気軽に立ち寄れることが、ハッピーと思ってもらえるよう成長し続けます。
SHICT代表
寺地 一貴

武庫川の河川敷、階段に腰掛けてこれからのことを語る寺地さん

●SHICT 宝塚本店
兵庫県宝塚市栄町1-1-11
営業時間/テイクアウト11:00~19:00
イートイン11:00~17:00(どちらも売れ切れ次第終了)
定休日/月曜
https://www.instagram.com/shict_takarazuka/

『シクト』の外観、立て看板も多く置かれている

◇取材日/2026年1月30日(当記事の内容は取材日時点の情報に基づいています)