マンション購入検討時には、毎月の住宅ローン返済額を算出して払えるかどうかを検討します。同じく、毎月のランニングコストとして必要な管理費と修繕積立金のことは、つい見過ごしがちではないでしょうか。
そもそも管理費と修繕積立金は使用目的が違います。
管理費は、建物や敷地内で共用される施設や設備の維持管理、マンションを良好な状態で維持するために必要な清掃・点検など、日々の管理業務で使用されるお金。
修繕積立金は、建物の壁や屋上、エントランスなどの共用部分を修繕・改修する目的で定期的に実施する大規模修繕工事などの費用を賄うために毎月積み立てるお金。
昨今の物価上昇傾向は管理費と修繕積立金にも波及しています。特に、修繕積立金では大規模修繕工事の財源不足が問題視されているマンションもあります。
なぜ、財源不足になるのでしょうか。
そもそも"修繕積立金"はどう決められているのでしょうか。
今回の記事では、"修繕積立金"の基礎知識をまとめています。
修繕積立金の目安は国土交通省のガイドラインで
マンションは、良好な居住環境を維持し、資産価値を保つために、適切なタイミングで大規模修繕工事を実施する必要があります。その財源となる修繕積立金は、新築マンションの分譲事業者が決定した額を購入時に提示されています。
修繕積立金がどのように決められているのか。それは、国土交通省が提示している『マンションの修繕積立金に関するガイドライン』によって知ることができます。
このガイドラインは、新築マンションの購入予定者に対し、修繕積立金に関する基本的な知識や、修繕積立金の額の目安を示し、分譲事業者から提示された修繕積立金の額の水準等についての判断材料を提供するために作成されています。
基本的に修繕積立金は、長期修繕計画に基づき、必要な修繕費用を計算します。その金額から専有面積1㎡あたりの基準金額を割り出し、住戸の専有面積割合で按分します。
修繕積立金の額の目安例
ガイドラインの修繕積立金の目安による算出例を見てみましょう。
10階建て、建築延床面積8000㎡、専有面積80㎡の住宅を例とした場合、月額の平均値は16160円、目安となる月額幅は11200円~21200円となっています。
10000円もの金額差が幅として目安にあるのは、共用部の違いなどによって掛かる大規模修繕工事費の差が、実際の修繕積立金の額に影響するからです。
例えば、超高層マンションは工事の際に特殊な足場が必要になる、機械式で収容台数も多い駐車場がある、大規模でエレベーターなどの設備が多く充実した共用施設がある、共用部の建材などに高級なものが用いられているなど修繕の対象、工事負担、建材価格などに差があればマンションの修繕積立金の額も違ってくるわけです。
相場観として、国土交通省の令和5年度・マンション総合調査(5年ごとに実施)の結果も見てみましょう。こちらは、修繕積立金の1住戸当たり月額平均は 13054 円(駐車場使用料等からの充当額を除く)となっています。マンションの規模や築年数、住戸の専有面積によって異なりますが、現実的な金額として参考になります。
まず、ガイドラインによる算出額は『目安』であると理解しておきましょう。
マンション購入時に修繕積立金の提示額が目安の月額幅に収まっていないと適切な額ではないという判断は早計といえます。マンションのどこにお金が掛かっているかをよく考えて判断することも大事だということです。
また、分譲事業者から提示される修繕積立金の額は、修繕積立金の積立方法によっても大きく異なります。
▶参照元:国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」の概要
修繕積立金、2つの積立方法
修繕積立金の積立方法は、均等積立方式と段階増額積立方式に分かれます。分譲事業者が提示した修繕積立金の額が、どちらの方式かによっては将来の資金計画(毎月支払う住宅ローン、管理費、修繕積立金の総額)に影響するため違いを知っておくことが必要です。
均等積立方式
長期修繕計画の作成時点において、計画期間に積み立てる修繕積立金の額を均等に毎月積み立てる方式です。安定した積立が可能ですが、購入時に支払う修繕積立基金など初期の負担が大きくなることがあります。均等に額を設定しますが、5年程度ごとの計画の見直しにより、推定修繕工事費上昇の見込みがあれば必要とする修繕積立金の額を増加する必要はあります。
段階増額積立方式
初期の積み立て額を抑えて、段階的に増額していく方式です。初期の負担は軽減されますが、長期修繕計画の見直しにより、計画の作成当初において推定した増額からさらに増加が必要となる傾向があり後の負担が大きいのが特徴です。
安定的な修繕積立金の確保を
前出のマンション総合調査によれば、現在の修繕積立金の積立方式は、均等積立方式が40.5%、段階増額積立方式が47.1%となっています。
段階増額積立方式は築年数の経過に応じて将来の負担が増す方式です。このため、いざ増額しようとすると区分所有者が新築時の状況を知らない途中入居者であったり、高齢化して費用負担が困難になっていたりと、区分所有者間で合意形成ができないことが起こり得ます。このような状況を招くと、修繕積立金の不足、修繕・改修が遅れるリスクも高まります。
国土交通省では、将来にわたって安定的な修繕積立金を確保する観点から均等積立方式を推奨しています。
長期修繕計画と大規模修繕工事
経年で劣化するマンションの品質を維持・管理するには大規模修繕だけでなく、定期的な点検・修繕、共用部設備などの改修も含めた30年以上の長期修繕計画が必要となります。
新築マンション引き渡し後の長期修繕計画は、管理組合で見直し・計画作成をしますが、実質的には管理業務を委託する管理会社に頼るところが多いため、その内容のチェックと判断が重要になるでしょう。
長期修繕計画の柱となる大規模修繕は「大規模の修繕建築物の主要構造部の一種以上について行う過半の修繕(建築基準法第2条第14号)」と定義されています。主要構造部とは、壁・柱・床・梁・屋上・階段のことを指していて、これらを建築物の機能や性能を建設当初の状態にまで回復させることを"修繕"としています。主な工事内容は、外壁の塗り直しやコンクリート部のひび割れの補修、屋上部の防水、階段、廊下、バルコニー、エントランスの補修が挙げられます。
一方、"改修"工事が必要なケースもあります。"改修"とは、建築物の機能や性能の回復だけでなく、その時代の水準に見合うようなプラスの設備を導入するといった快適性を高める工事が含まれます。例えば、エントランスセキュリティを強化、宅配BOXを新設、エレベーターの耐震化、省エネ性能の向上などは改修工事にあたるケースでしょう。
新築時に作成された長期修繕計画と、それを基に決めた修繕積立金の額のままでは難しくなることもお判りいただけたでしょうか。
長期修繕計画の見直し
長期修繕計画と修繕積立金は、5年程度ごとに見直す必要があるとされています。見直すときには、次のような内容の調査・診断を実施します。
①建物及び設備の劣化の状況
②社会的環境及び生活様式の変化
③新たな材料、工法等の開発及びそれによる修繕周期、単価等の変動
④修繕積立金の運用益、借入金の金利、物価、工事費価格、消費税率等の変動
いざ大規模修繕工事を実施する時期を迎えたら、
「修繕積立金不足で、工事が先延ばしになるかもしれない」「積み立て済の資金の範囲内で工事内容を見積もるという話もあるようだ」「工事実施にあたり、借入金や一時金を検討する話を聞いた」などさまざまな課題と向き合う可能性もあるのです。
考えられることのひとつは、長期修繕計画を見直し、修繕積立金の増額が必要だったにも関わらず先送りしたこと。
修繕積立金を適切に蓄えるためには、長期修繕計画の見直し≒修繕積立金の見直しと理解しておきましょう。後々の修繕積立費の大幅な引き上げや、大規模修繕工事の際に不足金を補う一時金を徴収することは、区分所有者全体に負担を強いることにつながります。
まとめ
長期修繕計画と修繕積立金を定期的に見直していくことは、資産であるマンションの品質を維持・管理する上で重要であるとご理解いただけたことと思います。
しかし、見直す側の立場になったとき、「大規模工事費用が適切なのか」「修繕積立金はいくら増額すればよいのか」を判断するのはなかなか難しいでしょう。
こうした課題や不安を解消するために、独立行政法人住宅金融支援機構では「マンションライフサイクルシミュレーション~長期修繕ナビ~」を提供しています。建物規模や築年数などに応じたマンションの平均的な大規模修繕工事費用、修繕積立金の負担額などの試算ができるため、お住まいのマンションの長期修繕計画をチェックしてみるのもいいかもしれません。
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※2024年10月29日時点の情報になり、今後内容が変更となる可能性がございます。