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2025.10.03

《東京・有楽町》

緑豊かなこの街で、花に想いを託して、人と人の心を繋ぎたい

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〈特集〉 この街この人
髙谷 未菜美(たかやみなみ)さん

『日比谷花壇』フローリスト
東京都出身。大学時代にフラワーアレンジメント部で花のアレンジメントに出会い、卒業後、入社した会社にてゲストハウスやホテルウエディング、商品企画などの経験を積んだのち、2014年に『日比谷花壇』へ入社。現在は『日比谷公園本店』でスタッフ兼フローリストとして勤めながら、花と緑で高齢者の癒やしと繋がりを育むフラワーファシリテーターとしても活動している。『日比谷花壇』のなかで、最も優れたフローリストのみが集う「フラワークリエーションルーム」のミドル・フローリストの一人。

老舗ならではの接客とナチュラルなフラワーデザインを提案

都会の中心にありながら、緑が豊かな日比谷公園。その一角にひっそりと佇む『日比谷花壇』は、今年で設立75周年を迎え、地域のランドマークとして親しまれてきました。高い天井とガラスを多用した店内は、室内とは思えないほど、光に満たされています。そんな清々しい空間で、にっこりと出迎えてくれたのが髙谷未菜美さんです。ここ日比谷公園本店では、フローリストとして花束の制作、アレンジメントのデザイン、店舗の装飾、イベント企画などに携わっています。「本店は日比谷花壇を代表する店舗ですので、古くからの常連様や花に詳しいお客様がたくさんおられます。そんな皆様に満足していただけるようなデザインや接客を心がけているのですが、毎日が勉強ですね」。

『日比谷公園本店』の店内、たくさんの商品が置かれている
「『日比谷花壇』の花は質が高くて持ちが良い」と評判。そんな声に応えられるように、花の管理はスタッフ全員で徹底している。「温度や湿度の管理はもちろん、その花に応じたメンテナンスも欠かせません。信頼できる生産地から仕入れた素材を丁寧に下ごしらえする...、花の管理は料理に似ていると思います」と髙谷さん。

毎週月・水・金曜に入荷する花は、種類ごとに丁寧な処理が施されます。水上げを良くするために茎に十字の切れ込みを入れたり、トゲのある花は突起を削ぎ落とすなど、花は2つとして同じものがないだけに、1本1本の状態を確認しながらの細やかな作業です。より深い理解のために、花の生産地へも積極的に足を運ぶという髙谷さん。花が育つ環境や生産者がどんな思いで育てているのかを知ることは、とても勉強になるそうです。

『日比谷公園本店』の作業場、花束を作りはじめる髙谷さん
お客様の要望に応じて、ブーケをデザイン。「新人の頃は、お客様の目の前で臨機応変に対応するスタイルに慣れませんでした。でも、お客様との会話の中から新しいデザインが生まれることを経験し、今ではお客様との会話が楽しいですね」と振り返ってくれました。

『日比谷公園本店』の作業場、ハサミで花を切る

『日比谷公園本店』の作業場、花束に1本1本丁寧に花を差し込んでいく

この日のオーダーは"野に咲く花をそのまま束ねたようなナチュラルなブーケ"。植物が自然に生育している様子を表現したナチュラルな植生的デザインで、髙谷さんがもっとも得意とするスタイルです。「たとえば、ひと口に"可愛い"と言っても、お客様のイメージされている"可愛い"が私のそれと違う場合もあります。アレンジしながら、お客様との会話のなかでイメージをすり合わせていくことが、とても重要なのです」と髙谷さん。また、贈る相手や目的によってニュアンスが異なります。「お客様ご自身に満足していただくことはもちろんですが、花を贈られた方にも喜んでいただけるデザインを心がけています。正解がひとつじゃないところが難しくもあり、やりがいを感じる部分ですね」。

『日比谷公園本店』の作業場、ラッピングをして、仕上げる
仕上げのラッピングも丁寧に。「私自身も愛らしい花や中間色が好きなので、楽しみながらデザインできました」。

そして、みるみるうちにブーケが完成。まるで野に咲く花を切り取ったような、可憐な花束です。本来、野生の花はランダムに咲いているもの。アレンジによりナチュラルさを表現するには、非常に高い技術が必要です。「花の種類や色選びから全体のバランス、高低差などが自然に見えるように工夫しています。まとまり過ぎてもナチュラルさに欠けるので、配置やバランスがとても大切なんです」と髙谷さんは話します。漠然としたイメージが髙谷さんの知見と技術によって、鮮やかに具現化されていくプロセスは、美しいライブパフォーマンスを見るようです。


店舗業務のほかに、デザイナーとして作品を作るのも大切な仕事。イベントや商品企画の社内公募では、髙谷さんの作品が商品化に至ったことも少なくありません。また、Instagramで作品を発信している髙谷さんのもとには、作品を気に入ったお客様からの指名オーダーが舞い込むことも。「口で説明してもうまく伝わらないこともあるので、写真なら一目で世界観を理解してもらえるので、積極的に発信しています」。

猫の日の販促企画の作品、猫に花をコーディネート
猫が大好きで、3匹の愛猫と暮らす髙谷さんに依頼された、"猫の日"の販促企画の作品。モデルとなる猫を選び、その毛色や雰囲気に合わせて花材や花色をコーディネート。「猫も大切な家族の一員としてトータルコーディネートを意識しました」と語る髙谷さん。

「想いを花にのせる」。フローリストとして高みを目指したい

花が大好きな家族の影響で、いつも花に囲まれて育った髙谷さん。大学でフラワーアレンジメント部に入って、花屋でアルバイトもし、髙谷さんの花好きは一気に加速します。「ウエディング雑誌で素晴らしい作品の数々を見て感動して...」。これほど人の心を動かす花の魅力をもっと追求したい、そんな想いでこの世界に飛び込みます。一刻でも早く経験を積みたいと、ホテルや施設、イベント会場などに花の装飾やアレンジメントを提供する会社で、大学4年生の夏からアルバイトを始めます。

某ホテルの宴会会場、ブライダル用の白とグリーンでまとめた装花
前職での作品で、某一流ホテルでのブライダルフェア用の披露宴会場の装花。白とグリーンで、まるで光や風がそっと通り抜けるような、静かな美しさを表現。

現在の『日比谷花壇』には「もっと花への可能性にチャレンジしたい。暮らしに寄り添う提案がしたい」という動機で入社。しかし、最初に配属された『西武池袋店』では戸惑いも多かったそうです。それまでは婚礼のゲストテーブルの中央に置くために、どの角度からも美しく見えるよう立体的にアレンジすることが多かったのですが、店舗で求められるアレンジは正面をいかに美しく見せるかが一番のテクニック。その技術を補うために先輩や仲間にも積極的に聞いてまわるなど、早く追いつけるよう努力したそうです。

そして、その努力が社内から評価され、異動先でも順調に成果をあげていた矢先、大きな転機が訪れます。髙谷さんの父が病に伏し、介護が必要になったのです。この状況で、介護と店長業務の両立は難しいと考え、店長ではなく「いちフローリスト」として、将来のキャリアを磨いていこうと決意しました。

『日比谷公園本店』の店内、お客様に注文の花束を受け渡す髙谷さん
フラワーデザインだけでなく、お客様の心に寄り添う丁寧な接客が評判で、指名するファンも多い髙谷さん。「お客様のイメージ通りの花束ができ、喜んでいただけた笑顔と言葉をいただくときは、いつもとてもうれしい気持ちになります」。

仕事と介護を両立させ、多忙な毎日を過ごしていた髙谷さん。ある日ふと、介護をしているとき、花を見る父や祖父母の生き生きとした姿を思い出し「花には人の気持ちに寄り添い、そっと元気を届ける力がある」ことにあらためて気付きます。花の持つ無限の可能性をさらに感じた髙谷さんは、自分の家族と同じように、生き生きと輝いているお年寄りを増やすため、7年前に「フラワーファシリテーター」の資格を取得。店舗での忙しい日々をこなしながら、休日を使って、介護施設などでボランティア活動も行い、これからの高齢化社会に向けた仕事の幅も拡げています。

『日比谷公園本店』の店内、髙谷さんが作った可憐な花束
最近はナチュラルなテイストの花束がトレンドであることから、髙谷さんの得意とするデザインが好評で依頼が増えている。

人と人の心を結ぶブライダルや宴会場の装飾に始まり、多様なニーズに即応する店舗での業務。多くの経験を経て、さらにフローリストとしての高みを目指す。高谷さんが信じる花の可能性は、これからますます大きく開花しそうです。

歴史と文化、そして癒やしの場が共存する街

有楽町・日比谷は、都内でも重要な歴史的・文化的なエリアです。どちらも江戸時代にその起源を持ち、豊かな文化が栄えていました。現在も東京宝塚劇場をはじめ、映画館や格式のあるホテルも多く、商業、エンターテインメント、ビジネスの中心地として賑わっています。近代的な商業施設やオフィスビルが建ち並ぶ一方で、古き良き東京の風情も感じられる場所。都会の中心地でありながら、歴史と文化が融合した街並みは、訪れる者の心を豊かに満たしてくれます。

『日比谷公園』の心字池、ベンチに座り、景色を楽しむ髙谷さん
野鳥観察で多くのファンが訪れる心字池。日比谷公園ができる前は江戸城の濠であった。その面影を残すために公園造成時に池が造成され、池全体を上から望むと「心」の字を崩した形をしている。園内でもひときわ静かな場所。
『日比谷公園』の第一花壇、季節の花が咲き誇る
日本初の西洋風公園として明治36(1903)年に誕生した日比谷公園は第一花壇も当時のまま。花壇四隅には多種多様のバラが栽培されている。
『日比谷公園』の大きな首賭けイチョウ
推定樹齢400~500年の首賭けイチョウ。道路拡張のため伐採寸前であったところを、明治35(1902)年に移植された。日比谷公園のシンボル的存在。

日本初の近代的な都市公園として誕生した日比谷公園は、髙谷さんの勤務する場所でもあり、大好きなスポット。気候のいい日はお昼にお弁当を食べたり、早めに家を出て、ベンチで朝食を食べることもあるそうです。「花と緑あふれる公園を歩いていると、季節の微妙な変化を感じ取ることができます。特に心字池に飛来する小鳥を眺めるのが好きです」と話す髙谷さん。この日も小さな鳥たちが池の周りで遊んでいました。コサギ、アオサギ、カモなど、訪れる季節の鳥たちのさえずりが髙谷さんの癒やしのBGMです。

『ラ・メゾン・ド・ショコラ』の店内、スタッフと談笑する髙谷さん
「ビターな味わいのガナッシュが好きなのですが、ほかにおすすめはありますか?」と尋ねる髙谷さん。ひとつひとつの商品の特徴を丁寧に紹介してくれるこのお店の接客は、丸の内の高級店ならではのおもてなし。

日比谷交差点を渡り、有楽町駅方面に少し歩くと、世界中で愛されている高級チョコレート店『ラ・メゾン・デュ・ショコラ 丸の内店』が見えてきます。「自分へのご褒美や特別な日の贈り物は、いつもここのチョコレートを選びます」と髙谷さん。シックな店内には、産地と品質にこだわったカカオ豆を使ったチョコレートがまるでジュエリーのように美しく並んでいます。髙谷さんがいつも選ぶのは、濃厚なカカオの香り高い苦みの効いた"アソコンボ"というダークチョコレート。「ガナッシュの口溶けが素晴らしい」と、満面の笑みで教えてくれました。

『ラ・メゾン・ド・ショコラ』の商品、髙谷さんお気に入りの詰合せ
「バレンタインデーにはいつも家族へ詰め合わせを贈ります」と髙谷さん。アタンション 6粒入は『ラ・メゾン・デュ・ショコラ』の代表的なボンボン・ドゥ・ショコラ6粒の詰合せ。ダークやミルクのガナッシュとプラリネをバランスよく楽しめる。1箱3,510円。

東京ミッドタウン日比谷は、都心最大級のシネマコンプレックス『TOHOシネマズ 日比谷』をはじめ、ショッピング、グルメ、エンターテインメント、アートなどが融合した複合施設。その敷地内にある日比谷ステップ広場は、『東京国際映画祭』や数々の音楽イベントの会場など、日本を代表するエンタメの発信地でもあります。髙谷さんはその賑わいを横目に、仕事帰りにウィンドウショッピングをよくするそうです。「日本初上陸のショップやおしゃれな飲食店も多いので、お店のディスプレイやフラワーデザインのアイデアの参考にしています」。

東京ミッドタウン日比谷・ステップ広場、ベンチで休憩する髙谷さん
日比谷ステップ広場にはベンチがあり、読書や音楽を聴いている方も多い。髙谷さんもよく寛ぎの場所として利用しているのだそう。

【 私が働く街 <有楽町> 】

この街で、私らしく、自分ができる仕事をしていきたい。

忙しい毎日でも、一人ひとりの想いに寄り添った花を、より丁寧に届けていきたいと思っています。贈る方や贈られる方、そして花を育ててくださった産地の方々、それぞれの想いをつなげられる"橋渡し"のような存在でありたい。私が働く『日比谷公園本店』は、記念日のギフトや人生の節目に関わるご注文が多く、 "想いを形にする場所"でもあります。

私のこれからの夢は、自然に囲まれたロケーションを活かして、花の魅力をもっと自由に体感できるような企画や空間演出、そして子どもたちに花や植物を通じた学びや体験を提供する『花育』にも関わっていけたら。この街だからこそできる、花と人との新しい関わり方を、少しずつでも形にしていきたいです。
日比谷花壇 フローリスト
髙谷 未菜美

日比谷仲通り、気持ちよく散歩する髙谷さん

●日比谷花壇 日比谷公園本店
東京都千代田区日比谷公園1-1
営業時間/ 10:00~19:00 土日祝 10:00~18:00 定休日/なし(年末年始は休業日あり)
※夏季・冬季は営業時間が変更になる場合があります
電話/ 03-3501-8783
https://hibiyakadan-honten.jp
https://www.hk-wedding.jp/creationroom/florist/takaya-minami/ (FLOWER CREATION  ROOM 髙谷 未菜美)

『日比谷公園本店』の外観、日比谷公園内に佇む


●日比谷公園
東京都千代田区日比谷公園1-6
電話/03-3501-6428
https://www.tokyo-park.or.jp/park/hibiya/index.html


●ラ・メゾン・デュ・ショコラ 丸の内店
東京都千代田区丸の内3-4-1 新国際ビル1F
営業時間/11:00~20:00 定休日/なし
電話/ 03-3201-6006
https://www.lamaisonduchocolat.com/ja_jp
https://www.instagram.com/lamaisonduchocolat_jp/


●東京ミッドタウン日比谷
東京都千代田区有楽町1-1-2
営業時間/ショップ:11:00~20:00、レストラン:11:00~23:00 定休日/1月1日
https://www.hibiya.tokyo-midtown.com/jp
https://www.instagram.com/tokyomidtownhibiya/?hl=ja

撮影協力/一般社団法人日比谷エリアマネジメント

◇取材日/2025年7月28日(当記事の内容は取材日時点の情報に基づいています)

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