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2026.01.09

《長岡天神・東向日・西向日》

縁をつないで曽祖父の店を復活させた、京・乙訓の和菓子屋さん

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〈特集〉 この街この人
辻山 由紀子さん

『辻山久養堂』(つじやまきゅうようどう)店主
京都府長岡京市生まれ。高校卒業後、地元の金融機関に就職。約5年間勤務し、結婚を機に退職。その後、ふたりの子どもの子育てをしながら別の地元金融機関に再就職。2023年6月、退職。翌年1月、生まれ育った実家の一部を改装して『辻山久養堂』を開店。曽祖父が1897(明治30)年に創業し、約20年前に惜しまれながら閉店していた老舗和菓子店を復活させた。

『辻山久養堂』が源氏巻と量り売りおかきの二枚看板で20年ぶりに復活!

赤、緑、茶、黄...。色鮮やかな羊羹(ようかん)で白餡を巻き上げた『源氏巻』。渦巻き状のコロンとしたフォルムが、不思議な愛らしさをたたえています。羊羹は切り分けていない一本単位で売られるのが一般的ですが、こちらの『辻山久養堂』には気軽に買えて食べやすい1カットから並んでいます。「意識したのは"映える" 見た目と、自然なやさしい味わいです」と朗らかに笑うのは、店主の辻山由紀子さんです。

皿の上にのった色鮮やかな『源氏巻』定番4種
源氏巻定番4種は手前から時計回りに、『源氏』、『かぐや』、『ほうじ』、『柚仔(ゆのす)』。1個250円~。1週間ほど日持ちする個包装もあり。

『辻山久養堂』は、阪急京都線西向日駅から徒歩約7分の住宅街で、2024年1月にオープンしました。地元の人たちにとってもそれは、懐かしさや喜びが込み上げてくる店名だったでしょう。向日神社の参道脇で100年以上営まれたのち途絶えていた老舗和菓子店の灯りが、新たな場所で20年ぶりに灯されたのです。

『辻山久養堂』の店内に立つ由紀子さん
実家の8畳和室を改装。アンティーク家具を配し、温かみのある和モダンな空間に。店内には縁側を活用した待合席(2席)もある。木製棚の上に見えるのは旧店舗で使用していた「名物 源氏巻」の看板。

長らく金融機関に勤めていた由紀子さん。この地域の窓口担当だった時、名札を見たお客さんから「辻山さんて、あの久養堂の?」と声を掛けられることが幾度かあり、「ずっと心に残っていた」といいます。

金融機関を訪れる地元の事業主や起業家は、「みなさん前向きで輝いていて。私も何かに挑戦してみたい」と刺激を受けていたのだそう。息子さんの独立を機に、家族や友人知人、何よりご先祖に背中を押されるように、「まさに突き動かされるような感覚」で、お店を復活させることを決意しました。

赤い『源氏』と背後に鵜呑みに入った煎茶と急須
まろやかな甘みが広がる源氏巻は、日本茶はもちろんコーヒーなどとも好相性。赤色の『源氏』は、ウクライナの伝統料理ボルシチでも知られる野菜ビーツを使用。
中にイチゴが入った季節限定の『いちびこ』
季節限定の源氏巻も人気。冬・春の『いちびこ』は大原の農園の苺を使用。夏のシャインマスカット『はれおう』も大好評だった。
店内に並ぶ『源氏巻』贈答用の1本売りセット
『源氏巻』(定番4種)1本1,100円。贈答用に箱代込みで2本2,400円、3本3,600円も用意。羊羹の色に合わせた紐を結び、パッケージも一新。

お店を復活させるにあたり、一人で切り盛りする由紀子さんは「源氏巻と量り売りおかき」の2本立てにすることを選択。ただし、「赤い源氏巻だけではさみしい」と、定番の味・色の種類を4つに増やしました。こだわったのは、身体にやさしい自然な味わいです。

鮮やかな発色の羊羹は、4種類とも着色料不使用の自然素材を使用。明治30年の創業時から続く赤い源氏巻『源氏』はビーツ、お店の復活時に登場した『かぐや』は抹茶、『ほうじ』は宇治ほうじ茶、『柚仔(ゆのす)』は自家製柚子ジャムといった具合です。羊羹も白餡も、天然天草の糸寒天、北海道産の大手亡豆(おおてぼうまめ)、鬼ザラ糖など、高品質な国産原材料を厳選。4色の定番のほか、苺、栗など旬の果物や食材を合わせた季節限定の源氏巻も人気を呼んでいます。


そして、二枚看板のもうひとつが、量り売りおかき。昭和の駄菓子屋さんのような透明のボックスに入って並ぶ色々なおかきを、ほしい量だけ袋に詰めてもらうスタイルです。以前のお店でもこの量り売りをやっていたそうで、由紀子さん自身も「好きなおかきを選んだ楽しい思い出がいっぱい」あるのだとか。

二つのお皿に盛り付けられた量り売りのおかき
各種おかき10g40円~。源氏巻と交互に食べると、源氏巻の甘さとおかきの塩味の無限ループに。 贈答用には12袋詰め合わせ2,050円も。
おかきの瓶
おかきは常時8~10種類。持参したマイ容器やクッキーの空き缶などで持ち帰ることもできる。
木製ショーケースの上に、おかきの分量を量る秤
おかきの横に置かれたアンティーク調のショーケース。秤やオブジェ、食器なども由紀子さんの見立て。
ずらりと並んだおかきボックスの奥で話す由紀子さん
普段は一人で切り盛りし、繁忙期はお母様がサポート。店内には娘さん作の源氏巻&おかきイラストや、息子さんが造った革製スツール、壁時計なども置かれている。

元祖の『源氏巻』手書きレシピをもとに試作を重ね、風味豊かな現代版を完成

かつての『辻山久養堂』は、明治30年に向日神社の参道脇にて創業。由紀子さんの父方の曽祖父から、4代にわたって営まれました。なかでも源氏巻は、地域住民や参拝客に長く親しまれてきた地元を代表する銘菓。当時は赤色しかなく、夏は製造しない季節限定の商品でした。「曽祖父が考案し、源平合戦の紅白の旗をイメージして名づけたそうです」。大晦日は深夜まで営業して初詣客が買い求め、おせち料理とともに食卓にのぼる、おめでたい正月の紅白菓子だったのです。

旧店舗時代の辻山久養堂の『源氏巻』
元祖源氏巻は、全国菓子大臣賞も受賞。商品名に「名物」の文字が添えられており、当時の人気ぶりが窺える。
旧店舗時代の『源氏巻』や和菓子が並ぶ催事店頭
旧店舗では源氏巻や最中、どら焼きなどの和菓子のほか、お腹をすかせた参拝者のためにパンやジュースも売っていた。

由紀子さんは辻山久養堂を復活させようと決意した際、約20年前まで4代目として店主を務めていたいとこのお姉さんに「源氏巻を復活させたい」と相談に行ったそうです。その時いとこのお姉さんはとても喜び、 3代目だった伯父さんの手書きレシピを譲ってくれました。「文字だけではわかりづらいところはいとこに実演してもらい、母と一緒に何度も何度も繰り返し試作しました」。

そして味や見た目、ボリュームなども工夫して、ちょっと小ぶりで可愛くなった現代版源氏巻が完成したのです。

現在の源氏巻、『源氏』の赤い羊羹をつくるため鍋で煮詰める様子
水でもどした糸寒天や水飴などを煮詰めて羊羹づくり。ビーツの色が白餡の水分でにじまないよう、レモン汁を加えるのがポイント。
鍋で煮詰めた羊羹のもとを型に流し入れる
ビーツの赤がしっかり定着してとろ味が出たら、型に流し入れて冷やす。
固まった赤い羊羹で白餡を巻き込む様子
固まった羊羹の上に均等に白餡を伸ばし、くるくると巻き込んでいく。
できあがった赤い『源氏』一棹
出来たての『源氏』。鮮やかな色合いとやさしい甘み、白餡の豊かな風味が持ち味。「どの色にするか迷われていたら、まず赤をおすすめしています」と由紀子さん。

源氏巻のレシピはいとこのお姉さんから、新店のロゴは習っていた書道の先生が揮毫(きごう)、店舗設計はWEB検索でたまたま見つけて気に入った設計事務所に依頼、食材の仕入先には金融機関勤務時代の人脈も...。「不思議なことに、必要な時には絶妙のタイミングで助けてくれる人が現れるんです(笑)」。由紀子さんが長年紡いできた人の縁が、源氏巻復活の力を引き寄せてくれたのでしょう。

曽祖父の代から縁深い向日神社は、今も心やすらぐパワースポット

由紀子さんが営む現在の『辻山久養堂』は、長岡京市の北東端、隣接する向日市との境にあります。この二市と大山崎町を含めた地域は"乙訓(おとくに)"とも呼ばれ、784(延暦3)年には桓武天皇が長岡京に遷都し、約10年間都が置かれた歴史ある地です。

『向日神社』の参道入口にある大鳥居の風景
乙訓の総鎮守である『向日神社』の大鳥居。この参道脇にかつての『辻山久養堂』があった。

現在のお店から歩いて約10分の場所に鎮座する『向日神社』は、由紀子さんにとって「辻山久養堂はじまりの地」であり、「氏神様として家族でお参りしてきた身近で大切な存在」だといいます。桜の名所としても知られ、満開時にはなだらかな勾配のある参道が桜のトンネルに。「昔から、毎年開催される桜まつりが楽しみでした」と由紀子さん。

緑いっぱいの参道を抜けて本殿に向かう由紀子さんの後ろ姿
大鳥居から本殿まで約200m続く石畳の参道をゆったりと歩く。春には桜、秋には紅く色づく楓が、参拝者を迎えてくれる。

この『向日神社』は奈良時代の718(養老2)年創建と伝えられ、室町時代の建築様式"三間社流造(さんげんしゃながれづくり)"の本殿は国の重要文化財に指定。延喜式神名帳にも記載された由緒ある式内社で、明治神宮のモデルになったことでも知られています。

権禰宜(ごんねぎ)の六人部美恵子さんも、辻山久養堂の復活を喜ぶひとり。「辻山さんと当社は、切っても切れないご縁があるんです。このあたりで祝い菓子や手土産といえば、緑のリボンをきゅっと結んだ紅白の源氏巻。太巻きみたいにどっしりしていてね」と、思い入れたっぷりに語ってくださいます。

『向日神社』境内で権禰宜の六人部美恵子さんと話す由紀子さん
権禰宜の六人部美恵子さんにご挨拶。「素敵なお店と聞いています。私も寄らせてもらいますね」と、由紀子さんと約束を交わす。
『向日神社』本殿に手を合わせる由紀子さん
本殿で商売繁盛やさまざまな人たちとの良き縁を祈願。静かな境内で鳥のさえずりが耳に心地よく響きわたる。

本殿で手を合わせ、そのあと境内の奥を巡るのが由紀子さんの参詣コース。「神様に一番近いところというでしょう? パワーを感じるし、五感が研ぎ澄まされるような感じで、気持ちがリセットされるんです」。

本殿裏の『鶏冠木の苑』で気持ちよさそうに深呼吸する由紀子さん
本殿裏に「鶏冠木(かえるで)の苑」と名付けられた空間があり、近年石舞台が設置された。「ここに来ると落ち着きます」と深呼吸&エネルギーチャージ。

お店を復活してから2年足らず。本格的な和菓子づくりやお客さまと接する楽しさはもちろん、個人経営ならではの試行錯誤や不安も交差する日々。店のロゴマークの十の紋は、「辻」の十の字に交わった道を表し、「人が交わり交流できる和菓子店に」との想いが込められています。「これまでお世話になった人、これから出会う人との縁を大事にしていきたいですね」。新しい『辻山久養堂』の未来にどんな"色"が加わるのか、期待がふくらみます。

【 わたしのホームタウン <長岡京市・西向日> 】

この街でもっと広げたい、源氏巻でつながる輪。新作も夢想中?

長岡京や西向日はとても住みやすい街です。電車で京都市街や大阪方面へ行くのも便利。歴史や自然に彩られた乙訓も、マルーンカラーの阪急電車も、私は大好きです。

いろいろな人との交流が増え、周りの人たちに支えられ、旧友と数十年ぶりに再会できたりと、今は店をはじめなければ体験できなかったささやかな幸せをかみしめています。うれしいことに、以前の店のお客さまもたくさん来店くださり、「源氏巻はやっぱり赤やね」とか「抹茶や柚子もええね」とお声を寄せてくださいます。お店の復活をまだご存じない昔なじみの方にも、スイーツ好きの若い世代の方たちにも、令和版の源氏巻の魅力をもっと広めていきたいですね。かつてのように地域に愛され、しっかり根付かせて、いつか余裕ができたら、以前の店で提供していたどら焼きの復活や最中アイスなんかもありかな?なんて考えています(笑)。
辻⼭久養堂  店主 辻山由紀子

/『向日神社』本殿前でにこやかに話す由紀子さん

●辻山久養堂
京都府長岡京市滝ノ町2-2-6
TEL/075-955-2657
営業時間/10:00〜17:00
定休日/日・月曜、祝日
※テイクアウトのみ
https://tsujiyama-kyuyodo.jp
https://www.instagram.com/tsujiyama_kyuyoudou/

『辻山久養堂』の外観


●向日神社
京都府向日市向日町北山65
TEL/075-921-0217
社務所受付時間/9:00〜16:00


◇取材日/2025年10月20日(当記事の内容は取材日時点の情報に基づいています)

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