ぐるり街めぐり〈大阪・池田編〉
創業元治元年 吾妻
遠方からもわざわざ食べに来る、口福の一杯
元治元年(1864年)創業の老舗うどん店『吾妻』。この店のうどんに魅せられたファンは多く、遠方からでも電車に乗ってわざわざ訪れるといいます。お目当ては名物の『ささめうどん』850円。先代である5代目店主が1970年代に考案したという看板メニューです。
当時はうどんの茹で時間に25分ほどもかかっていたそうで、近隣のうどん店では麺の茹で置きが一般的でした。そんな中、コシのある讃岐うどんが流行したことをきっかけに、先代が「強いコシがありながら、お客様をお待たせすることなく、茹でたてのおいしい状態で提供できないか」と試行錯誤。その甲斐あって、3分程度で茹で上がる自家製の細麺を考案し、完成したのがこのうどんです。
この店の一番のこだわりは、なんといっても"出汁(だし)"です。前夜から水につけておいた利尻昆布に、カツオやサバ、ウルメイワシの削り節を合わせて取って、一升徳利に分けます。寸胴鍋に入れて温めたままにするのではなく、口の小さい徳利に6~7人前分ずつ小分けにしておくことで、煮詰め過ぎず、出汁の香りを逃さず、風味を保つことができるのです。
注文が入ると、徳利のまま出汁を湯せん。砂糖と薄口醤油で味を調え、水溶き片栗粉を入れてあんかけ仕立てにし、仕上げに生姜、すりゴマ、三つ葉、かまぼこ、塩昆布、刻み揚げをトッピングします。自慢の自家製細麺はコシがあり、とろみのある出汁ともしっかりと絡んで、最後まで味わい深い一杯がいただけます。
いつ訪れても「あの日食べた、あの味」を味わえる感動
『ささめうどん』は当初、店の代表メニューとして"吾妻うどん"と名付けられていました。現在のメニュー名になったきっかけは、このうどんが誕生した約3年後の1970年代後半、小説家・谷崎潤一郎氏の妻・松子さんが来店してこれを召し上がったこと。当時まだお店に立っていた4代目店主が夫人と会話を交わす中、谷崎潤一郎氏の代表作『細雪』の名をいただいて、『ささめうどん』としたそうです。
歴史に名を残す文豪とのつながりがメニュー名の由来になるなど、この店がいかに長い歴史を持つ老舗であるかがわかるエピソード。思えば創業の元治元年は、新撰組の池田屋事件などが起きていた幕末の動乱のさなか。その時代から160年も営業し続ける同店は、店全体が歴史の物語を感じさせる、貴重な空間です。
店内の各所には、創業当時を思わせる木製看板や行燈(あんどん)など歴史を伝える品々が残っていますが、その一つといえるのが、代々受け継がれてきた"味"そのものです。「出汁の配合や製法は変わっていません。古くからのお客さまに『いつ来ても味が変わらないね』と言っていただけることが喜びですね」と6代目店主の巽正博さん。
伝統を大切に守りながらも、先代同様、時代に合わせて新しいものを取り入れていく工夫も欠かしません。今では夏の人気メニューとなっている『冷しささめきつね』900円も、老舗の味を継承していく中で正博さんが考案。過去から現在、そして未来を感じられる場でいただくうどんは、とても感慨深い味わいです。
【この街が好き/STAFF VOICE】
今もなお地域のつながりが残るところがこの街の良さですね
池田は大阪や京都市内へ行きやすいなど、交通の利便性がよい街です。一方、『がんがら火祭り』や『猪名川花火大会』をはじめ、今もなお各地域で盆踊りが続けられているなど、歴史や文化が感じられる街でもありますね。地域のつながりが希薄になっている時代ですが、池田は温かな関係性が残っているのではないでしょうか。地元民同士はもちろん、観光客などほかから訪れる人たちに対しても親切だと思います。
吾妻 6代目店主・巽正博さん(写真右)と7代目・巽将斗さん
●創業元治元年 吾妻
営業時間/10:30~16:00(15:30L.O.)
定休日/火曜、ほか不定休
電話/072-751-3644
池田市西本町6-17
https://azumaudon.wixsite.com/ikeda/home
◇記載しています営業データ・商品・価格等は2024年9月1日時点の情報です。
◇時期によってはメニュー内容や商品が変更になっている場合があります。
◇表示価格はすべて税込です。