『木造』というと、戸建やアパートなどの建物が多く、高い水準の耐震性能が求められるビルやマンションなどの高層建築物は、鉄骨造とRC(鉄筋コンクリート)造が一般的なイメージでしょう。
しかし、近年では木造による中高層や大型の建築物は増えており注目度も高まっています。
その象徴的な存在には、2021年開催の東京五輪に向け建設された国立競技場や2025年開催の大阪・関西万博の会場シンボル・大屋根リングが挙げられます。
前者はスタジアムの外周に47都道府県から調達した木材を活用しており、後者は日本の神社仏閣などに使用されてきた伝統的な貫(ぬき)接合に、現代の工法を加えて建設され世界最大級の木造建築物となります。
こうした『木造』による建築物増加の背景には、脱炭素社会の実現や森林資源の活⽤、⽊造化を推進するグローバルの動き、技術・制度面の発展があると考えられます。
今回は、近い未来に住まいの選択肢として登場するかもしれない中高層や大型の木造建築物の現状と、リフォームでの木材活用事例を紹介していきます。
背景1)森林国・日本の課題と、脱炭素社会の実現
現在、日本の森林率は、国土の約3分の2を占める67%、そのうち40%は戦後の植林による人工林です。
人工林とは、人間が苗木を植えて育てた森林で、日本では杉、ヒノキ、アカマツ、カラマツなど比較的成長の早い、建築用途に適した針葉樹林を中心に育成されてきました。単一樹種が多く手入れや管理を怠ると樹木が育たなくなり、土地や森林が荒れてしまうことがあります。一方、自然に生えている森林は、樹木の種類もたくさんあり、多くの生物が生息しています。基本的に、自然(天然)更新が行われるため、過剰に人の手が加わると生態系や環境の変化など影響を及ぼすことがあります。
森林の樹木は、光合成により二酸化炭素を吸収し酸素を放出する存在です。しかし、人間と同じように呼吸もしているため、酸素を吸収し二酸化炭素も放出します。成長期の若い森林と、成熟した森林を比べると、吸収量と呼吸量の差はだんだん小さくなり、二酸化炭素の吸収能力は低下していきます。
つまり、⼆酸化炭素の吸収能力のピークを過ぎた樹齢50年超の樹木が多いことが明白な人工林は、重点的に伐採し、吸収能力の高い若い森林に育て直さなくてはならないという課題があるのです。
日本は「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラルを目指す」と宣言しています。これは、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの"排出量"から、森林などによる"吸収量"を差し引いた合計をゼロにすることを意味しています。
脱炭素社会の実現に向けては、伐採と植林による森林のサイクルを回して、⽊材の需要を拡⼤し、森林資源を活用していく必要に迫られている状態ということです。
現状、国土交通省の建築着工統計(令和5年度)では低層木造住宅が8割超を占めており、いまだ少ない中高層建築物などでの木材利用の促進を積極的に支援する動きがあります。木造による中高層や大型の建築物の建設は一過性のトレンドなどではなく、さらに普及が進むと考えられるでしょう。
出典元:国土交通省/新築建築物に占める木造建築物の割合(R5年度着工・床面積)
背景2)技術と法整備が木造建築を促進
古来、日本の住宅は木造建築で、海外の住宅は石やレンガ・コンクリートが多いというイメージです。
しかし、近年の木造建築は欧米での取り組みが進んでおり、ノルウェーには世界一の高さ(約85m)の木造建築ビル(2019年完成、2024年末時点)があります。この建設でも使用された構造材『CLT(※1)』は、海外の建築物の木造化・木質化(※2)を加速させた要因のひとつといえるでしょう。
一方、日本には、世界最古の木造建築物として有名な奈良・法隆寺五重塔(高さ30m以上)や、木造建築として一番高い京都・東寺五重塔(高さ50m以上)など、木造建築の構造的安全性を古くから実証してきた技術があります。現代においては、CLTのほか耐火集成材(※3)や、木材と鉄骨とのジョイントなどの技術開発により中高層や大規模な木造建築に取り組んでいます。
国は、建築物の木造化・木質化を推進するため、2000年の建築基準法の改正にはじまる法整備を行ってきました。まず、RC造と同等の防火性能を有する建物は、都市部でも3階建て以上の木造建築が可能となり、次いで、2010年に施行された「公共建築物等における木材利用の促進に関する法律」で、住宅以外の中大規模の建築計画に木材が活用されるようになり木造建築の潮流を生み出します。この法律は、2021年に「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律(通称:都市<まち>の木造化推進法)」に改定されています。木材利用に取り組む建築主に対して行政の補助金制度を整えることでバックアップしているということになります。
※1:クロス・ラミネーティッド・ティンバー=日本では直交集成板と呼ばれ、木の板を繊維方向が直角に交わるように重ねて接着した厚型のパネル、壁や床に使用
※2:木造化=構造が木材で作られること、木質化=見た目や風合いを木材にすること
※3:建物火災時の耐火性能を持つ木の柱・梁など新たな木質系材料
木造建築がもたらす価値とは
現代の木造建築は、カーボンニュートラル、環境負荷の軽減、森林資源の循環と有効活用など、効果を目的とする文脈で語られていることが多いようです。
しかし、日本の歴史的建造物を振り返っても、現代の戸建住宅においても約8割が"木"で作られています。その理由は、森林が多く材料となる木材が豊富だったことだけが理由ではないでしょう。
日本の高温多湿な気候に対し、湿度を調整する性質や断熱性を持つ木材が適しているということ。石やレンガなどに比べ、木材は弾力性や柔軟性があり、曲げに強い特性があるということ。また、木材特有のぬくもりある質感、触感や嗅覚などに与える感覚的効果も小さくはないはずです。木造による中高層や大型建築が街並みの中に増えていけば、景観としての美しさも加わることになるでしょう。
"木"のぬくもりを感じる住まいとは/リフォーム事例
木造建築の価値、木のぬくもりを感じる住まいで暮らしたい。そう考える方は少なくないでしょう。
現在のお住まいや中古物件を購入しリフォームを検討している方に、ぜひ、参考にしていただきたいリフォーム事例をご紹介します。
杉の無垢材を使用したこちらのリフォームは、お子さんたちの「この木のにおいがすき」という意見を活かしたことがプランづくりのキッカケとなったそうです。
香りのよいフローリングの床面は、"木"の個性である節目や色のばらつきがナチュラルな空間を印象付けています。キッチンの腰壁や巾木も杉材で仕上げ、同じ杉材の使用が難しい場所には木目調の素材を選ぶことでインテリアの統一感をもたせました。
木材は、調湿機能・吸音性・香り・柔らかさ・紫外線の吸収・心身のリラックスや癒し、ストレスの軽減などさまざまな効果が挙げられています。森林の循環にも貢献する木材の活用、リフォームアイデアのひとつとして取り入れてみてはいかがでしょうか。
▶リフォーム事例の詳しい情報はこちらをご覧ください。
やさしい肌触りや風合いに癒される、天然木の家 | 阪急阪神のリフォーム
まとめ
"木"はそのものが再生可能な持続的資源といえます。
老朽化してきている日本の森林を循環させ再生する、伐採した樹木を活用する。
『木造』による建築物が増えることは、人と環境にやさしい建築物が増えるということ。
脱炭素社会やサステナブルな未来にもつながるのではないでしょうか。
不動産に関するお悩みやお困りごとは、『阪急阪神不動産』にぜひご相談ください。
※2025年1月30日時点の情報になり、今後内容が変更となる可能性がございます。